インターネットマガジン バックナンバー

Powered By  

※この記事は『インターネットマガジン2005年12月号』に掲載されたものです。文中に出てくる社名、サービス名、その他の情報は当時のものです。

 

EPIC 2014は新聞を題材にしているが、暗に全マスコミへの警鐘も鳴らしていると思える。ここでは、インターネットに造詣の深い各業界のリーダーに視聴後の感想を寄せていただいた。

 

EPIC 2014については以下の記事もご覧ください。
“Google+Amazon=Googlezon”の出現を予言するムービー「EPIC 2014」を読み解く

佐々木 俊尚

大手新聞社で警視庁などを担当。後、アスキー編集部などを経て、現在フリージャーナリスト。検索エンジン、ブログなどをテーマに各種メディアで活躍中。著書「検索エンジン戦争」など。

EPIC 2014は決して突飛な空想を物語っているのではない。そのストーリーは、現在のインターネットが歩もうとしている進化の道筋を忠実になぞっているからだ。
進化の道筋とは何だろうか。端的にいえば、ネットのパーソナライゼーションとでもいえる方向性である。それはいい換えれば、検索エンジンやECサイトといったネット上のさまざまなサービスがメディア化しつつあるということでもある。たとえばAmazonのグループ会社であるA9は、パーソナライズされた検索エンジンの開発を行っている。利用者が過去に検索したキーワードの履歴がデータベースに蓄積され、利用者の興味対象などが解析されて表示されるという仕組みだ。これにAmazonがオンライン書店上で行っているレコメンデーションを組み合わせれば、マスマーケティングとは対極にある究極のパーソナルマーケティングが実現してしまう。これは驚くべきパラダイムの転換であり、マーケティングの考え方を根底からひっくり返す新しいシステムだ。
さらにいえば、このパーソナルマーケティングが実現しつつあることで、消費者の購買行動そのものさえドラスティックな変化を遂げようとしている。ロングテールといわれている現象がそうだ。大ヒットやベストセラーの時代は終わりに近づいており、これからは消費者個人の願望に合わせてパーソナルなマーケティングが行われ、それに基づいた個人向けの消費市場が出現する。
そしてそれは、裏返せば巨大な監視社会の出現でもある。それを明るい未来と見るか、それとも暗黒時代の到来と考えるかは、受け止め方次第である。

高橋 徹

インターネット戦略研究所代表取締役会長。インターネット協会副会長。NetWorld+Interop 94Tokyoを日本で初開催、ISP東京インターネットを社長として設立。著書「インターネット革命の彼方へ」など。

見た。問題は、ジャーナリズムの機能がどう変化するかである。この映像が示唆しているのは、権力に抗う姿勢を持っているはずのメディア(新聞)が、ブログに圧されてその機能を失うかもしれないことへの危惧であり、かえって逆にブロガーが批判(critics)機能を保持し得ないかもしれないことへの警鐘でもあるだろう。ブロガーのコミュニティーが自律的に批判機能を育てて保持する未知の道を探ることが、旧ジャーナリズムの機能に代わる新ジャーナリズムを生むことにつながるようにならないものか。マスメディアの消滅と無数の小メディアの誕生が、新たなメディアの覇者の前に批判機能を失うことになれば、新たなジョージ・オーウェルの物語が現実になる。そうなるとブロガーに批判機能を求めることは、愚かな民に叡智を求めるのに等しくなる。

増田 勇

レッドクルーズ株式会社代表取締役社長。RSSリーダー「eクルーザー」の開発と、同チャンネルを利用した各種情報サービスの提供を行う。

EPIC 2014を見て、現実に起こりうると直感的に思った。
「Googlezon」が誕生するかどうかは別として、ますますインターネット上のコンテンツ(情報)が増えていくことは誰の目にも明らかだ。もう既に、ユーザーは自分に必要な情報を効率よく選択して処理することができなくなっている。そこで誕生したのがRSSだ。RSSをアグリゲイトすることで自分仕様の「マイメディア」をつくれる時代になってきている。また、リアルの世界でも、商品やペットなど、あらゆるものにICタグ付けが進んでいる。無線LAN、カーナビ、情報家電、携帯などの普及に伴い、最終的にすべてがつながって巨大ネットワーク化され、リアルの世界も統合されて、ユーザーが自分に必要なことを時間や場所を気にすることなく、効率よく処理できる時代が必ず来るだろう。
変化する環境に適応できたものだけが生き残れるダーウィンの進化論にあるように、激変する環境の中で生き残っていく企業は、新しい環境に適したビジネスモデルを手に入れ、それを戦略的に育てることができる企業だろう。

村瀬 康治

テレビ朝日勤務。パソコンの黎明期から初心者向け入門書を執筆。テレビ朝日では技術責任者も務め、ITと放送の両面に造詣が深い。ミリオンセラー「MS-DOS入門」など著書多数。

この作品は頷ける個所と、私と認識が異なる個所とが混在している。それぞれの部分の妥当性はともかく、これからのIT社会を見通すための重要な示唆やヒントを与えてくれるありがたい「刺激教材」と捉えたい。この近未来ストーリの作者と向き合える機会があれば、さぞかし面白い話ができるだろうと思う。
うちのネットストアは品揃え豊富、即配で安いよ。私どものBB配信は名作・新作・インディーズ、何でも揃って高画質格安提供。このような昔ながらの素朴な販売形態をGooglezonが改革する。同じ「配信」でも、たとえばRSSを応用したポッドキャスティングのような多少は知恵を絞ったやり方もあることを暗に教える。EPIC 2014は、ネット上におけるさまざまな新機能を実現するソフトウエア開発とその応用が、ネットビジネス(ひいてはIT社会)を制することを主張しているのだと思う。
テレビの世界もネット世界の流れの影響下にある。ネット上の新しい仕組みをうまく応用し、放送とITとの相乗効果を生み出したい。
最後にニューヨークタイムズの件で一言。新聞業界は、日本でもパソコンがまだヨチヨチ歩きの1980年代初頭、原稿入力-編集-印刷-配送までを完全電子化し、劇的な情報革命を断行したパイオニアである。その底力が失われているとは思えない。

砂原 秀樹

奈良先端科学技術大学院大教授、WIDEボードメンバー。日本初の研究用インターネットJUNETを、慶応大学の村井教授らとともに創ったインターネット研究者の草分け。

技術者の観点からするとEPIC 2014の描く世界は技術的飛躍があり、このようなことは実現しないと思ってしまうが、教育者という観点で見てみると誇張されてはいるが、重要な警鐘を鳴らすものとなっていると思われる。つまり、インターネット時代のリテラシー教育の基礎ともいえることを、今からきっちりとやっておかないとEPIC 2014の描く世界が現実のものとなってしまうだろう。与えられた情報を選別する能力、情報を発信することの意味を理解する能力を身につけるための教育が「今」不可欠なのである。EPIC 2014を見ながら、映画「マイノリティリポート」のことを思い起こしていたが、これに出てくるプリコグ(将来犯罪を起こす可能性のある人を予測するシステム)に近いシステムをフロリダにある会社がすでに実現している。このシステムには80億件もの情報が収集され、約12万人が犯罪を起こす可能性があると判断したということである。こうした情報を見ながら「あなたが何を得るかを考える」、そこからスタートしなければならないであろう。

服部 桂

朝日新聞記者。87年よりMITメディアラボ研究員として米メディア産業の調査を行う。科学部記者、パソ編集長など歴任。著書「人工現実感の世界」「メディアの予言者」など。

メディア業界にとっては、オーウェルの「1984」のような作品だが、昨今の楽天やホリエモンとメディアの確執を見ていると、リアリティーに溢れるストーリーだ。
ネットが加速させたデジタル情報の増加は、未曾有の情報爆発をもたらし、個人がテラからペタバイトを日々扱う世界がやって来る。情報処理の本質が整理と検索に集約されることが次第に明らかになり、マイクロソフト(MS)も、ウィンドウズにIEだけでなく、検索窓を付けなくてはパソコンが動かなくなることに気づき始めた。最近のグーグルはこの分野であまりに先行し、世界最大級の情報企業になってしまった。そのため、自らの肥大化を正当化して浄化することに(MSのように)、ほとんどの資源を使わなくてはならなくなる危険を感じ始めている。仮にグーグルがアマゾンと一緒になったとすると、かつての巨大企業IBMやAT&Tのように、司法省ともめることになるかもしれない。
近代の新聞を成り立たせたのは、19世紀のインターネットともいわれる電信と、日々大量印刷を可能にする輪転機の出現だ。ニュースを伝えたいという志と手段が合体してメディアとして成立した。新しいインフラによって手段は変われど、ニュースを知りたいという人類の関心は変わらない。新聞やテレビが初心に返れば、自ずと道は開けよう。しかし、一度これまでの前提を取り払って、Web 2.0以降の世界観を論議することも必要だろう。

関連記事:
“Google+Amazon=Googlezon”の出現を予言するムービー「EPIC 2014」を読み解く