20年記念特別企画 インターネットの10年後を語ろう! 2026年への展望または仮説

インターネットという新しい技術を手にしたことで、この20年、私たちの生活は大きく変わったが、さらなる劇的な変化が起こるのは、これからの10年かもしれない。1996年の発刊以来、市場の成長を 見続けてきた本白書では、20年の節目にあたり、各分野の専門家にインターネットの10年後を語ってもらおうと、いくつかの質問をした。その答えを一挙に紹介し、2026年の未来を展望しよう。

岩佐 大輝
世代を超えた連携で一次産業へのICT導入を

岩佐 大輝 (いわさ・ひろき)

株式会社 GRA 代表取締役 CEO、起業家

10年後のインターネット社会に向けて、
これから注目したい分野やテクノロジーはなんでしょうか。

ICTおよびロボティクスをいかにして一次産業に導入していくかに注目したい。保守性の極めて高い一次産業。たとえば農業従事者の平均年齢は2015年に67歳を超え、まもなく70歳の大台を超えるところまできている。これまで農業は勘と経験が支配する匠の技が一子相伝的な形で伝えられてきたが、他産業に比べて労働時間当たりの生産性は低迷し、若者の農業離れは深刻な状況になっている。このままでは「強い農業創り」などの国家的目標を果たす前に、私たちが毎日の食事に日本食を食べられない日が来てもおかしくはない。世界的にも評価が高く、優れた日本の農業生産物と生産技術を残し育てるために、それを高い粒度感で形式知化することが必要だ。それによってPDCA(改善サイクル)に乗せることができる。そのためにはまさにICTの力が有用だ。その形式知化を進めるために年配の熟練農業者をどのように巻き込んでいくか、世代を超えた連携が必要になってくる。

奥田 浩美
貨幣以外の価値あるものの循環が重要に

奥田 浩美 (おくだ・ひろみ)

株式会社ウィズグループ・株式会社たからのやま代表取締役

10年後のネット社会に向けて、今後ご自身で取り組みたいこと、
創っていきたいことを教えてください。

インターネットの出現によって、つながりが可視化された。この先の10年は、そのつながりの上で、各個人がどんな価値を所有・循環しているかが可視化される。見える“価値”は「お金」という単位だけではなく、「情報」や「情熱」「社会への姿勢」「その瞬間の意思決定」といったものまでをも含む。これまでの社会では、“価値あるもの”を多く所有することがよしとされたが、これからは価値あるもの”をいかに自分の手元に所有せず循環させられるかが重要になる。なぜならつながりの社会では“価値”に対して沸き起こる共感が貨幣と同等の価値を持つ存在になり、循環させる=豊かな経済に等しい状態を創る、という意味を持つからだ。そうなると次世代の教育もその価値観に沿ったものでなければならない。10年後の私は次世代のリーダーづくりに関わっているだろう。「情報」や「情熱」「社会への姿勢」などをも循環させられる人材教育のために私は走り回っている。

後藤 滋樹
人間が操作しないインターネットが発展する

後藤 滋樹 (ごとう・しげき)

一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター (JPNIC) 理事長

10年後、インターネットのある社会・生活は
どのようになっていると思いますか?

今後10年を経過するまでもなく、インターネットは目立たなくなる。従来のインターネットの主要な構成要素は「パソコン」と呼ばれていた。それはパーソナルつまり個人が操作するものだ。インターネットは人間社会を便利にしたが、同時に個人を駆り立てる。我々は人間が操作するインターネットの所為で、睡眠不足に陥った。これからは「人間が操作しない」モノのインターネット(IoT)に期待したい。そのIoTが膨大なデータを積み上げると我々はゴミの山に埋もれてしまう。人工知能(AI)が直ちに人間の代役を果たせないとしても、すでに使われている知的増幅器(IA:Intelligence Amplifier)の技術を活用しよう。私はインターネットの活動に参加する以前は人工知能の第2次ブームのなかで研究していた。AIという用語の名付け親であるJohn McCarthy先生の研究室の客員研究員であった。現在の人工知能の第3次ブームの活況のなか、私は昔の杵柄(きねづか)を思い出している。

杉浦 孝明
インターネットが変えるこれからのクルマ社会

杉浦 孝明 (すぎうら・たかあき)

株式会社三菱総合研究所 ITS グループ グループリーダー主席研究員

10年後、インターネットのある社会・生活は
どのようになっていると思いますか?

2026年、私たちの最も身近で、自由な移動手段であるクルマは、自動運転の時代に突入、高速道路では3割程度の車が自動運転で走行する社会となる。自動運転技術の基本は、ドライバーの運転をサポートする機能だが、このシステムが社会に受け入れられるためには、きめ細かな、人間らしい運転操作の再現が求められる。日常生活での私たちの運転は、「いつも通るこの道、朝は子供の通学が多いので、慎重に」などドライバーの「経験知」を相当活用している。一方、システムが子供の遊ぶ公園の手前で一時停止するなどの気配りをせず、障害物や交通法規のみを考慮して車を制御した場合、住民にも不安を与えてしまう。これからの10年は、インターネットによりクルマがつながるIoTの世界。あらゆるドライバーの「経験知」が集約され、「集合知」となり、ドライバーとシステムが協調し、インターネットがあらゆる場所でのきめ細かな安全運転を実現することを期待する。

田中 浩也
遠隔転送技術でインターネットがモノを運ぶ

田中 浩也 (たなか・ひろや)

慶應義塾大学環境情報学部准教授 SFC 研究所ソーシャルファブリケーションラボ代表

10年後、インターネットのある社会・生活は
どのようになっていると思いますか?

「モノのインターネット(IoT)」が話題になっているが、ここで言いたいのはモノをインターネットにつなぐこととは異なる。モノの設計図がデジタル化され、3Dプリンターが今より高速・高精度・高機能になって世界中に分散して存在するようになれば、これまでのような物理的な輸送と流通網に頼ってモノを運ばなくてもよくなる。データの送受信だけで地球の反対側にモノを送り届けたり出現させたりする、いわば「テレポーテーション(遠隔転送)」技術が完成するだろう。すでにNASAでは、宇宙船内に無重力対応の3Dプリンターを配備し、地球からデータで「工具」を転送するという実験が行われている。この考えを地球上に展開すれば、あらかじめモノを大量生産しておいて販売するのではなく、データをもとに必要な時に必要な量だけを製造する適量生産、そしてCO2を撒き散らす輸送ではなくクリーンなデータ転送でモノが運ばれる社会が到来するだろう。

玉城 絵美
他者の身体操作や感覚も共有できるように

玉城 絵美 (たまき・えみ)

H2L 創業者

10年後のインターネット社会に向けて、
これから注目したい分野やテクノロジーはなんでしょうか。

現時点で注目したいサービスは、VR(Virtual Reality:仮想現実)やAR(Augmented Reality:拡張現実)による言語、動画像に加えて身体操作や感覚の体験共有サービスである。 2015年は、VRとARに関する変革が次々と起こった年だった。HMD(Head Mounted Display:ヘッドマウントディスプレイ)やVR/AR用の身体操作や感覚のコントローラが実用製品として多数発表され、どのデバイスがスタンダードになるかの競争になっている。そのデバイス競争が収まりつつある2025年以降は、現在のSNSでの文章や動画像による体験共有サービスが、投稿者の身体操作や感覚をVRやARとして皆で体験共有するサービスへと進化するのである。2025年以降は、まるで他人になったかのような感覚で様々な体験ができるサービスが一般的となり、我々をさらに楽しませてくれるネット社会になるのではと期待してしまう。

西川 徹
ネットワーク自体の人工知能化が必要に

西川 徹 (にしかわ・とおる)

株式会社 Preferred Networks / Preferred Infrastructure 代表取締役最高経営責任者

10年後のインターネット社会に向けて、
これから注目したい分野やテクノロジーはなんでしょうか。

これからの10年で、コンピュータネットワーク技術とディープラーニングをはじめとする先進的な機械学習技術・人工知能が、より密接に融合するようになる。人工知能がネットワークで接続されることにより、デバイスどうしがリアルタイムで知的に連携・協調し、より高度な判断が実現されるだろう。また、インターネットにつながるデバイスの種類の増加により、ますます多様なワークロードが生まれる。そのような多様性・複雑化に対応するため、ネットワークはその制御の大部分を人工知能に任せるようになるとイメージしている。ネットワークセキュリティにおいても、脅威の多様化・複雑化に対応するため、ルールベースではなく機械学習ベースの手法が利用されていくだろう。こうした世界の実現には、ネットワークデバイスも高度な機械学習技術を持つ必要がある。ネットワーク自身が、インテリジェントな判断をリアルタイムで実現する必要があるのだ。

橋本 大也
超能力の現実化に伴い格差拡大もより問題に

橋本 大也 (はしもと・だいや)

データセクション株式会社 取締役会長

10年後、インターネットのある社会・生活は
どのようになっていると思いますか?

テレパシー(思考転写)、サイコキネシス(念力)、プレコグニション(予知)、クレヤボヤンス(千里眼)、テレポーテーション(瞬間移動)など、SFに出てくる超能力の実現。インターネットと先端技術を融合してイノベーションを起こし「超能力」を次々に実現していくのが次の10年だと考えています。超能力を得た個に行動の変化が起き、社会も変わる。いいことばかりでもない。テクノロジー普及にはコストがかかり、世界中で平等には起きないから、格差の問題が経済、社会、政治へと波及するでしょう。格差は憎悪、テロ、戦争を起こす。そこでも超能力が使われる混迷の時代に、平和に安定成長していける社会経済圏をつくるリーダーや組織が勝つ時代になると思います。ハッカー×政治家のような新しいタイプの起業家が繁栄のための持続可能プラットフォームを提供している。アジアからの技術革新も本格的になっているころ。注目分野は広義の教育サービス。

東田 幸樹
インターネットが変わっても基盤の重要性は不変

東田 幸樹 (ひがしだ・こうき)

株式会社日本レジストリサービス代表取締役社長

10年後のネット社会に向けて、今後ご自身で取り組みたいこと、
創っていきたいことを教えてください。

今、モノがつながるインターネット「IoT」が私たちの生活を変え始めている。東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年頃には、さまざまなモノがインターネットにつながり、その数は500億を超えるとも言われている。さらにその先、10年後の2026年には、技術はより進化し、人間の暮らしは今とは様変わりしているだろう。国民生活・経済活動に欠かせなくなったインターネットの役割はますます大きくなり、国の存続に関わるような大事な社会インフラになっているはずだ。私たちはこれまでドメイン名やDNSの分野でインターネットの基盤を支えてきた。10年後、インターネットの形が今と変わっているとしても、そうした基盤の重要性はきっと変わることはない。私たちはこれからもその基盤を守り、進化させ、そして安定運用し続けることにより、豊かな未来の実現に向けて、ネットワーク社会に貢献していきたい。

藤原 洋
技術はコンピュータ間からデータ間接続へ

藤原 洋 (ふじわら・ひろし)

一般財団法人インターネット協会 理事長

10年後のインターネット社会に向けて、
これから注目したい分野やテクノロジーはなんでしょうか。

10年後は、インターネット技術の役割が変化する。これに伴い、発生情報のビッグデータ分析と人工知能(AI)の技術が進化する。すなわち、インターネットの役割は従来のコンピュータ間接続に加え、データ間接続へと進化する。現状では3つ個別に存在しているIoT/ビッグデータ/AI技術を統一する技術が出現する。モノから発生する情報はイベント情報と計量情報に分類され、これをビッグデータ分析する場合、現状では個別処理となっている。AIは、イベント情報と計量情報とで分類し、さらに個別の機械学習を多層化した個別深層学習に留まっている。今後は、インターネットによるデータ間接続技術によって、データの統一化と、個別ではなく統一深層学習手法を用いたAI技術が確立するものと考えられる。この結果、インターネットの利活用技術の大きな発展が予想される。たとえば、完全防御可能なセキュリティ技術や高度自動運転技術などである。

福野 泰介
10年後、人類はモノヅクリに明け暮れている

福野 泰介 (ふくの・たいすけ)

株式会社 jig.jp 代表取締役社長/ IchigoJam 開発者

10年後、インターネットのある社会・生活はどのようになっていると思いますか?
10年後のインターネット社会に向けて、これから注目したい分野やテクノロジーはなんでしょうか。
10年後のネット社会に向けて、今後ご自身で取り組みたいこと、創っていきたいことを教えてください。

10年後の社会:完全食品の大規模工場生産によって食べるために働くことから解放された人類は、モノヅクリに明け暮れていた。知識、データ、成果物などがオープンデータ化され、必要とするモノやスキルは誰もが自由に習得できる。インターネットへは専らメガネを通じてアクセスする。社会と自分自身を照らし合わせ、見るべきものは自動的に視界に合成されるメガネはこだわりの鯖江産だ。注目する技術、作りたいこと:今日は来月開催されるロボコンに向けたモノヅクリ。ロボコンとは、特定の課題を解決するロボットを持ち寄って競うオフカイの一種。潤沢な帯域と究極の低遅延によるコミュニケーションは、オフカイ最大の魅力。今回のテーマは「柿の収穫」。いかに軽く、いかに速く、いかに美しく収穫するか?人工知能の提案から絞り込むのも手だが、直感のままに一気に創り上げるのもまた楽しい。産地ならでは食と意外な技術の使い手との出会いが楽しみだ。